第1章 売れない日々
● 初めてのお客様が教えてくださったこと                          (mag02)

 前回ご紹介しましたように、初めてのお客様のお言葉が給料泥棒と呼ばれた私をどんなに変えてくださったかを詳しくご紹介しようと思います。引用になりますが、

『案内は多く、次第に興味を持ち出したところに君が来た。多くの営業マンに比べて君が1番失礼な態度だった。それでも君の会社と契約したのは、君の失礼な態度の中には、本音があったからだ。他の営業マンは都合のいいことしか言わないように思えた。君のことを買ってみたいと思ったから君と契約した。』

という言葉の中に『営業の本質』がありました。すなわち、

『君の失礼な態度には、本音があった』
『君の事を買ってみようと思った』

ということが『営業の本質』なんです。どういうことかというと、お客様は私よりも人生経験豊かな方だったので、様々な勧誘にも慣れていて、当然その断り方も慣れていたのです。だからこそ営業マンが媚び諂っているのかどうかなど一瞬で分かるし、媚び諂う営業マンの言葉など話半分にも聞かないのが当たり前の方だったのです。
 この方が特別なのでしょうか?いいえ、誰もがそうなんです。誰だって買い物くらいしますし、その度に店員に薦められることもあり、”信じて買ったのに、あまり役立たなかった”なんて経験はあるのです。そういう経験のおかげで、物を買うことに関しては誰もがシビアな目を持っているんです。特にこんな不況の中では、”うまい話には裏がある”と誰もが思っているんです。
 そういう環境の中であっても、必需品は買わざるを得ないんです。奢侈品は買いたいと思えば買えばいいんです。
 では、何を基準にして買いましょう?特に最近の場合ですと、飲食物が有名業者による偽装工作されている時代です。役人は自分たちの保身しか考えていない時代です。これといった客観的な基準がない時代なんです。
 そうなんです。客観的基準がないなら、自分の主観的基準で判断すればいいんです。要は”気に入ったら買えばいいし、気に入らなければ買う必要はない”んです。
 何を気に入るのでしょう?
 そうなんです、その商品を扱う営業マンです。その営業マンを信じることができるかどうかで、買うかどうか判断すればいいんです。逆に営業マンの立場から言えば、お客様に気に入られればいいんです。

 昔から言われる『商品を売る前に自分を売れ』というのが『営業の本質』なんです。

 しかし、私がどうしても納得できなかったのは、『気に入られるためには何でもしろ』という直属の上司の指導でした。ある統計によると、営業マンがセールスを辞めたい理由として、1位.売れないから(73%)、2位.心苦しいから(41%)、3位.体調不良(35%)のため、が挙げられています。特にご注目していただきたいことは2位の”心苦しいから”という理由です。はじめは私も、『売れなくて会社に申し訳ない』という意味で心苦しいのかと思ったのですが、実は、『商品を欲しがってもいない見込み客を、説得して言いくるめて押し売っていること』が心苦しい理由だというのです。説得して言いくるめて押し売らなければいいじゃないかと普通は思うかと思います。しかし実は、その売り方とは上司が教えた方法であり、会社の中では当然の方法なのです。その方法が会社の中では伝統であり、その方法以外は禁忌なんです。結局その方法を使わざるを得ないので、お客様に対して心苦しくなるわけなんです。
 前述しましたように私もそうでした。当時の上司が”タバコの火をつけたり、荷物をもったりして、最初は気に入ってもらうように努めて、商談中はメリットを大袈裟に説明し、クロージングではイエスと言うまで帰らないと見込み客に喰らいつけ”と指導してくるたびに、そんな仕事はしたくないとずっと抵抗してしまいました。私にとっては詐欺師にしか思えなく、詐欺師になるために大学院で学業を修めてきたわけではないと思っていたからです。しかし他に営業手法を知っているわけでもないので、営業成績は上がらなかったんです。

 しかし、そんな折に、初めてのお客様とお知り合いになれたおかげで、営業が面白く思えたんです。なぜなら、”演技でなく本音を伝えられ、またその本音を信頼していただいた”からです。そうです、自分を売ることができたからです。しかも、自分にウソをつかずに。

 そうなんです、『自分を売る方法とは、本音で話すことだけ』なんです。

 こればかりは、自分で体感しなければ分からないことだと思います。しかし、この体感が多くなればなるほど、シャープでコンパクトな表現でお客様にもっとわかりやすくなるようにと、自主的に心配りに気をつけるようになります。そうすると、演技ではないですから、お客様はファンになってくれます。ここまでくると、お客様はあなたに会うだけで喜んでくださいます。そうなると、営業は天職だ、と自然に思えるでしょう。私にも思えるんですから、きっとみなさんもそうなると思います。

 次回はもうひとりの恩師をご紹介します。最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございます。
 では、また来週 Have a good Week !!!!

次回予告:社長に教えていただいたこと                       (mag03)


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